2017.9.8-9
もはや芸術祭ブームと言いたくなる盛り上がりの昨今、皆さんはどこかへお出かけになりましたか? 私は「奥能登国際芸術祭2017」に行ってきました。とても楽しい時間を過ごせましたので、旅の様子と一緒にご紹介します。
この芸術祭では、展示作品は主に海岸線に沿って広範囲に配置されています。車がないと厳しいように感じるかも知れませんが、実は全然大丈夫。芸術祭の専用バスとレンタサイクルを駆使して、スイスイ周遊できちゃうのです。
この周り方は、便利なことはもちろんですが、別の意味でもお勧めなんですよ。地方芸術祭のバスツアーでは、地元の方がボランティアガイドを務めることが珍しくありませんが、そんな時にはガイドブックに載っていない話を直接聞けたりするのが醍醐味なんです。またレンタサイクルでは、道中「どこから来たの」と声をかけられて、そこからディープな地元トークが聞けることも。ほとんどご近所さん気分に浸れたりします(笑)。
今回も、奥能登に伝わる塩田の仕組みや、都市部からの移住にまつわるお話など、地元の方ならではの話題にたくさん触れることができました。土地についての興味が深まると、景色や作品の見え方が変わってくるのが面白いんですよね。
それでは、作品の一部をご紹介しましょう。
原っぱのむこうに青い空、広い海、そしてこぢんまりした一軒家! 開放感のあまり思わず「ワァーイ」と声をあげて、皆さんに笑われた私です…(笑)。
なんと、壁一面が、サザエの貝殻! そして、壁だけではありません。
おうちの中は、ぐるぐると螺旋状に! そう、ここは、サザエのおうちなのでした。
この《サザエハウス》を作られたのは、村尾かずこさん。奥能登ではサザエがよく採れるらしく、おもてなしの料理としても振る舞われることから、人々が支え合って生きる集落を表現したのだとか。そういえば、奥能登では9月から10月にかけて、なんと毎日どこかしらでお祭りが催されるのだそうです。共同体の機能が生きている「この土地らしい作品」なんですね。
もうひとつご紹介。浜辺に建てられた巨大なガンダム……ではなく鳥居! これ、何でできていると思いますか?
プラスチック容器やペットボトル……中にはハングルの印字がうっすらと残っているものも。そう、漂着物でできているのです。
日本海側には、昔から大陸からの漂着物が多く流れ着いたため、数多くの「漂着神」を祀った「寄神伝説」があるのだとか。この神社――深澤孝史さんの作品《環波神社》は、そこから着想を得ているようです。時は移ろい、大量生産品の廃棄物が流れ着くようになったこの浜辺で、《環波神社》は新しい時代の物語を想像させてくれます。
まだまだ魅力的な作品やプロジェクトがいっぱい詰まった奥能登国際芸術祭2017。残念ながら会期は終わってしまいましたが、私、この旅で発見しました。能登の魅力はアートに限りません。自然や人はもちろんのこと、鮮魚も能登牛も地酒も最高なんです……!
半島の地形にも由来して、土地自体が豊かな能登。というわけで、会期外でもぜひ訪れてみてください。「でも、会期が終わっちゃったしなぁ……」と残念に思われる方、大丈夫ですよ。
奥能登と金沢はバスで一本。日本屈指の現代美術館である金沢21世紀美術館の「死なない命」展は、来年2018年の1月8日(月)まで開催中なのです!
すごいタイトルだなあと思っていたら、人工知能や遺伝子工学の発達によって問い直されている今日の生命倫理観について考える試みなのだそうです。巨匠デミアン・ハーストから若手ミュージシャンのやくしまるえつこまで、幅広い作家の作品を多数展示。これが企画展ではなく、館の所蔵品によるコレクション展だというから驚きです。茶・器・漆などの伝統のみならず、現在も「文化のあり方」を模索し続けるのが金沢流なのですね。
遠出の後は、その楽しさがまだ続いているような気がしますよね。散歩をしていても、「こんなところにあったっけ!?」と小さなお地蔵さんにビックリしたり、誰かが整備してくださっているであろう花壇が急に視界に飛びこんできたり。そんな楽しみが続くかぎり、旅もまた続いているのかもしれませんね。
●奥能登国際芸術祭2017
2017.9.3-10.22
http://oku-noto.jp/
●金沢21世紀美術館 「コレクション展2 死なない命」
2017.7.22-2018.1.8
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1751