東京都庭園美術館

改修工事を経て、2018年3月21日に待望の全館オープンを果たした東京都庭園美術館へやってきました!

写真の本館は、朝香宮鳩彦王が1947年に皇籍離脱をするまでお住まいになったというアール・デコ様式の邸宅――旧朝香宮邸です。その後も政治家・吉田茂の公邸として、また迎賓館として使用されてきたというこちらの歴史的建造物が美術館として開館したのは、1983年のこと。建物自体の美しさもそのまま「美術品」として認められたわけですね。

 

朝香宮鳩彦王のご意向で配置されたというブロンズの狛犬

アール・デコ様式の邸宅のはずが、玄関前で出迎えてくれたのは、なぜか狛犬。旧朝香宮邸の建物自体は、朝香宮ご夫妻が1925年のパリ万国博覧会(通称アール・デコ博)に感銘を受けたことをきっかけに建てられたものなのだとか。

その内装や設計を手がけたのは、当時のアール・デコを代表する芸術家、アンリ・ラパン! これには驚かされましたが、さらに宮内省内匠寮(たくみりょう)も加わっていたことも重要なポイント。彼らは、宮内省所管の建築や土木を扱うエリート集団です。

そう、こちらは「和洋折衷の館」なのです。そもそも、アール・デコ自体が19世紀末に西洋で流行したジャポニスムの流れを一部汲んだものという見方もあるようですので、日本とアール・デコの相性は良かったのかもしれませんね。

 

さて、この日は展覧会「建物公開 旧朝香宮邸物語」が開催中でした。さっそく鑑賞レポートをスタート……する前に、お伝えしておきたいことが。

「何から見ればいいかわからない」「きれいな物がたくさんあるけれど、それが何なのかわからない」「せっかく来たのだから、充実した時間を過ごしたい」という方は、ぜひ東京都庭園美術館のアプリをダウンロードしてみてください。文字情報から音声ガイド、ちょっとしたクイズまで、内容充実のアプリなんですよ。

館内ではWi-Fiが使えますし、言語も日・英・中簡・中繁・韓・仏の中から選べますので、外国からいらした方を連れて行かれても喜ばれるはず。このアプリがあるのと無いのとでは鑑賞体験の密度がまったく異なりますので、自信をもっておすすめします!

 

1階・大食堂。アンリ・ラパンによる内装

 

1階・小食堂。宮内省内匠寮による内装

それでは、ポイントごとに西洋と日本のアール・デコを比較して見て行くことにしましょう。まずは内装からです。上掲の2枚の写真は、来客時の会食に使われた大食堂と、日常的に使用された小食堂。用途によって趣や規模感に違いがあるのが伝わってきますよね。

大食堂が石やガラスの質感により絢爛でフォーマルな印象を覚えるのに対して、小食堂のほうからは木の温もりと落ち着きを感じます。

なお、大食堂でひときわ目を引く照明は、装飾デザイナーのルネ・ラリックによるもの。また、小食堂に安定感を与えている平組の天井は「格天井(ごうてんじょう)」と呼ばれ、材木には秋田杉が使われているそうです。

 

1階・大客室のシャンデリア。ルネ・ラリックによる

2階・姫宮寝室前の照明。宮内省内匠寮による

次は、照明を見てみることにしましょう。大客室のシャンデリアは、とにかく華やか! 照明部分は花の形をしていますが、ほかにも幾何学的な花がモチーフとして使用されているのが、この大客室の特徴なのだそうです。

2階の姫宮寝室前にある照明には、ステンドグラスが用いられているそうで、反射光が天井を彩っているのも目に楽しいです。外光のある場所ということもあり、照度を保つためというよりは、オブジェのような存在ではないでしょうか。

大客室の照明からは多くの来訪者へのおもてなしが感じられるのに対し、姫宮寝室前の照明からは姫宮に注がれている深い慈しみが伝わってくるようです。

 

2階・姫宮寝室に置かれていた2脚の椅子

2階・第一浴室。宮内省内匠寮による内装

さらに、細かい意匠にもご注目を。姫宮寝室に置かれていた2脚の椅子は、デザインはアンドレ・グルー、絵付はなんとマリー・ローランサンによるものだそうです。1924年のものとのことなのですが、当時のマリー・ローランサンと言えば、キュビスムから華やかな画風へと移行した頃ではないでしょうか。この絵付も優しい色合いが美しいですね。

浴室では、床に敷き詰められているモザイクタイルに注目です。アプリで山茶窯(つばきがま)製陶所製と書かれている解説を読み、はっと思いだしました。
https://gateway.jmapps.ne.jp/article/岐阜~愛知 焼きものツアー/
上記は愛知県陶磁美術館の「京都市陶磁器試験場の釉薬研究と小森忍―寄贈・堀田毅コレクションを中心に―」展をご紹介したときの鑑賞日記ですが、この小森忍が創設したのが山茶窯製陶所なのです。日記内では小森が大正天皇に花瓶を献上していたことに触れていますから、小森の陶磁は宮内省内匠寮にとって馴染み深い存在だったのかもしれません。

 

3階・ウインターガーデン。宮内省匠寮による内装

さて、西洋と日本のデザインを比較して来ましたが、最後に融合の例をご紹介しましょう。
市松模様に敷かれた大理石とマルセル・ブロイヤーのデザインチェアの組み合わせがお見事です。ちなみに、このウインターガーデンは公開期間が限られていますので、「どうしても見たい!」という方は、あらかじめ公開中かどうかを調べてからご来館になるのがおすすめです。

 

2014年にオープンした新館へ続きます

庭園やカフェで一息ついた後は、新館の展示室へと参りましょう。

展覧会「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」では、仏文学者・鹿島茂さんの絵本コレクションがずらり! 鹿島さんと言えば、昨年にサイトがオープンした書評アーカイブ「ALL REVIEWS」が人気を博していますね。まさに時の人といったところでしょうか。

 

「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」展より

見た目にも楽しいフランス絵本ですが、外見だけではありません。「時代を画するか否か」の視点で集められたというこちらのコレクションでは、挿絵やイラストレーションの歴史、子どもの教育と人権の発展、作家と編集者との信頼関係や確執……と、さまざまな切り口から「フランス絵本」という大きな世界を覗き込むことができるのです。

私のお気に入りは、ナタリー・パランという作家さん。かたちの切り出し方が面白いな~と思いながらキャプションを一読したところ、なんとモスクワでロトチェンコたちからロシア構成主義を学んできた方でした。ひとくちに絵本と言っても、分野をまたいだ繋がりがあるものですね。

もちろん、フランス語が読めなくても十分に楽しめます。好奇心をそそるエピソードがぎゅっと詰まったキャプションの数々も、こちらの展覧会の見どころなのですから。それに、文字が読めるかどうかという視点で言えば、フランスのちびっ子たちと私たち外国人では、さほど変わらないのでは。だとすれば、もしかすると外国語に自信のない方こそ、この展覧会で最も歓迎されるべきお客様なのかもしれませんね。

 

広大な庭園や、多言語解説アプリなど、ホスピタリティあふれた機能を備える東京都庭園美術館。お子さんと、海外からいらしたゲストと、またはご自身やご親戚の上京時に、ぜひお気軽に訪れてみてくださいね!

 

東京都庭園美術館
「建物公開 旧朝香宮邸物語」2018.3.21-6.12
「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」2018.3.21-6.12