桜とはひと味違う「日本の花の美」…菖蒲のある風景コレクション

 

もうすぐ端午の節句ですが、「菖蒲湯」をご存知でしょうか。菖蒲の葉や根を入れて沸かしたお風呂こと。菖蒲は古来より薬草として重宝され、邪気を払うとも言われていたそうです。また、形が刀に似ていることから、男児にとって縁起の良い植物とされていたとか。

「端午の節供」は別名「菖蒲の節供」とも言われ、本来は菖蒲が主役の厄祓い行事だった…それなら、菖蒲湯の位置づけも分かります。血行促進などの効果も期待しながら運気アップなんて、お風呂好きの日本人にとって最高のシチュエーションですよね。

そんなわけで、今回は「菖蒲」で検索してみましょう。その前に、知識の整理を、簡単に。

 

菖蒲と花菖蒲は、厳密には違うようです。種としてのショウブはショウブ目、ショウブ科、ショウブ属とのこと。ハナショウブはノハナショウブの変種で、キジカクシ目、アヤメ科、アヤメ属ですので、「菖蒲はショウブだけど、花菖蒲はアヤメの仲間」ということになるのでしょうか。奥が深そうですね〜。

まずは、植物標本でイメージを理解しましょう。なるほど、葉は刀に似ていますね。

■ ノハナショウブ :熊本市立熊本博物館 収蔵品データベース
https://jmapps.ne.jp/kumahaku/det.html?data_id=19047

 

生物学的な話はさておき、花としての菖蒲の美しさに魅せられる画家は多いようですね。MAPPS Gatewayで検索すると、魅力的な絵画作品がたくさんありました。

■ 蓮尾 辰雄「菖蒲」 :市川市文化スポーツ部文化振興課(文学ミュージアム)
https://jmapps.ne.jp/icmol/det.html?data_id=32634

この作品なんか、じっと眺めていると、そよ風に揺らぎ始めそうな感じがしませんか? 繊細で、花を慈しむような画家の視線を感じます。日本的な美も漂っていますよね。

 

■ 菅原さちよ「立夏(菖蒲)」 :サンバレー美術館
https://jmapps.ne.jp/3800artmuseum/det.html?data_id=3815

まるで華やかさを競うように、いくつもの花が描かれているこちらの作品は、少しゴージャスな雰囲気。花の生命力も感じますね。

 

■ 歌川広重「花菖蒲にかわせみ」 :足立区立郷土博物館
https://jmapps.ne.jp/adachitokyo/det.html?data_id=433

動きのあるカワセミの描き方ですが、花にも動きを出すことで、一緒に戯れているようにも見えます。もう「さすがは広重先生」といったところでしょうか。このままアニメーションにしてみたいくらい…というか、動きがイメージできますよね。

 

■ 「白地流水に菖蒲桜散らし文様」 :金沢美術工芸大学美術工芸研究所
https://jmapps.ne.jp/ktki/det.html?data_id=268

紅型は、沖縄を代表する染の伝統工芸です。水辺に咲く菖蒲の花が描かれていますが、ここまで大胆にデフォルメしているのに、水の流れを感じさせてくれるのはすごいです。

 

■ 歌川広重「名所江戸百景 堀切の花菖蒲」 :中山道広重美術館
https://jmapps.ne.jp/hiroshige/det.html?data_id=593

松の木がすごく小さく描かれていることで、広々としたところに菖蒲が咲いていることが分かります。水面も穏やかで、遠くにカラスの声が聞こえてきそうな静かな夕暮れ、でしょうか。

 

こうして絵の中の菖蒲を楽しんでいると、「菖蒲を愛でている昔の人たちの姿も見たいなあ」と思いますよね。もちろん、そうした系統の作品もたくさんありますよ。

 

■ 揚州周延「千代田の大奥 花菖蒲」 :岩国徴古館
https://jmapps.ne.jp/iwakunichokokan/det.html?data_id=1201

今でいうテラスのすぐ下に菖蒲が咲いていて、それを見下ろす豪華な着物姿の女性。千代田の大奥とは、大奥の年中行事や生活を描いたシリーズだそうですが、すべて揃えた展覧会が開催されるといいですね。それにしても、いや、お美しい…。

 

■ (合筆)歌川豊国三代・歌川広重二代「江戸自慢三十六興 堀きり花菖蒲」 ;足立区立郷土博物館
https://jmapps.ne.jp/adachitokyo/det.html?data_id=1053

菖蒲のそばで何か話している二人の女性。表情が明るく、とても華やかな雰囲気ですが、これも菖蒲がよく似合います。彼女たちを遠巻きに見ているのでしょうか、男性がコミカルですね。

 

■ 月岡芳年「東京自慢十二カ月 五月 堀切の菖蒲」 :足立区立郷土博物館
https://jmapps.ne.jp/adachitokyo/det.html?data_id=858

菖蒲の花の方を振り返る着物姿の女性、これも美しい絵です。背景の展望台らしきところにいる男性は洋装のようで、この時代の様子がわかりますね。それにしても、この女性の姿勢がたおやかですね。

 

■ 小林 清親「堀切花菖蒲」 :兵庫県立美術館
https://jmapps.ne.jp/hpma/det.html?data_id=5531

展望台がある菖蒲園を少し遠くから描いた作品。いわゆる名所なのでしょうね。先ほどの月岡芳年の作品と同じ場所でしょうか。

 

あれこれ眺めていると、「堀切」と名が付く作品がとても多いことに気付きました。東京都葛飾区のホームページよると、「堀切菖蒲園」は江戸時代に誕生した花菖蒲園で、当時から江戸の名所だったそうです。

花菖蒲は200種6,000株もあり、6月になると一気に咲き乱れるのだとか。中旬までが見ごろのようで、毎年そのころに「葛飾菖蒲まつり」が開催されています。現在の6月前半は、旧暦では4月の中旬から5月の初旬。つまり、端午の節句に向けて、菖蒲が花盛りを迎えるわけです。

今回ヒットしたコレクションを並べて見直してみたら、どれも生気溢れるものばかりに感じたのですが、「なるほど、そういう背景があるのか」と感心しました。そろそろ新年度の疲れが出る頃、桜とはまたひと味違った「日本の花の風景」を感じる菖蒲の美で英気を養うのもよさそうです。

 

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