琉球漆芸の美と感動に触れる、学びの回廊――浦添市美術館

沖縄県内で最初にできた公立美術館、浦添市美術館。琉球漆器のコレクションが常設されている「日本初の漆芸専門美術館」でもあります。現地に到着すると…いえ、到着する前から目に入るあまりにも個性的な外観に、最初から期待度マックス状態。というわけで、今回は展示を眺めていきましょう。

15世紀に成立した琉球王国は、日本はもとより中国や朝鮮、東南アジアとの交易も盛んでした。その中で、琉球漆芸は重要な輸出品であったわけです。17世紀に入り、日本の幕藩体制下に置かれるようになってからは、日本の諸大名の間でもかなり人気が高かったとか。展示を見ると、そうした芸術品としての風格が明確に伝わってきます。

これは「黒漆葡萄栗鼠螺鈿箔絵料紙箱」。螺鈿については「MAPPS Gateway」でも特集したことがありますので、ご興味がおありの方は下記リンクから。こちらのミュージアムでは、材料となる貝も展示されていました。
https://gateway.jmapps.ne.jp/article/%e8%9e%ba%e9%88%bf/

貝の内側、特に左側のものを覗くと美しい光沢が。螺鈿の材料であることがひと目で分かる美しさでした。

貝がらの光沢を使って、黒いキャンバスに鮮やかな絵を描くような螺鈿細工。自然の美と職人の技がそのまま味わえるこの品を日常生活で使うとは、最高の贅沢ですよね。

 


琉球漆器には、こんな小さなものもあるのですね。細やかな螺鈿細工は、むしろ小さな作品の方が職人の技巧の見せどころなのかも。いや、本当に見事です。

その技巧を継承するために、沖縄県では1991年に琉球漆器を無形文化財に指定。現代的なデザインの琉球漆器も次々に生まれている そうです。

こちらは、キャンディなどを入れるお菓子箱。「ボンボン入れ」というそうですが、開く時のワクワク感が伝わってきそうですよね。お菓子を詰めて子どもたちにプレゼントしたら…と思うと頬が緩みます。


これは、デイゴの木を加工した器。ダイニングに何気なく置かれていると、とてもオシャレではないでしょうか。果物を盛ってみたいです。


こちらは、柿の形をした器。個人的に、見た瞬間「欲しい!」と思いました。出会いがミュージアムでなく工芸品店だったら、即座に値札を見ていたことでしょう。


こちらは、琉球ガラスと漆器のコラボ。琉球ガラスの表面に堆錦技法という琉球漆芸の技法で文様を貼り付けてあるのだとか。異質な素材同士の邂逅感も、とてもよい感じです。

ここまでは、どちらかというと右脳で鑑賞するアートといった感じ。美しさに見入っていたのですが、ここからは左脳もフル回転。まずは、次の2枚を見比べてみてください。

1枚目の作品は、底の部分には数枚の板をつなぎ合わせ、縁の部分は薄く加工した木材を巻き上げて作られています。一方、2枚目の作品は、木材を回転させながら削って作られているんです。つまり、まったく異なる手法が活かされているわけですね。
この展示は、 製作方法がわかるⅩ線CT画像写真と一緒に展示されていて、思わず「なるほど〜」と感心。これがミュージアムの楽しみですよね。


話は変わりますが、沖縄では豚肉が食材として多く使われます。そこで豚の血液を漆の代わりとして使用していたとのこと。こちらの作品では、表面ではなく下地に使われているそうです。


こちらは、描かれた図柄から動物を見つけようというキッズ向けのコーナー。左側の鶴が描かれた作品は短冊入れ。実に凝ってます。

展示では、琉球・沖縄だけでなく、アジア地域 の漆芸を鑑賞する機会が設けられています。漆器が交易の品だったからでしょうか、用途は違っていてもテイストは似ているように感じました。

たとえば、こちら。実は、タイの山岳少数民族が使用している提げ籠なのだとか。煌びやかな図柄、特別な日のお出かけ用なのでしょうか。簡単でも解説とともに眺めると、想像力の翼がグッと広がりますよね。


触れる漆芸コーナーも用意されていました。先ほどの「柿」と似たものもありますが、実際に手に取ると親しみが倍増。う〜ん、やはり欲しいなあ…。


冒頭で紹介した螺鈿細工は、その製造工程の説明もありました。当然ですが、やはり手間がかかるんですねえ。過程を学ぶと、そのありがたみがよりリアルに伝わってきます。

展示室を出ると、「漆すごろく」が目に留まりました。作品のカードも用意され、子どもたちが楽しく学ぶことができそうです。思わず読み込んでしまいました…。

 

こちらの常設展示では、音声ガイドが導入されています。展示そのものは年間3回の入れ替えがあるのですが、そのたびにガイド内容も差し替えるのだとか。準備の大変さを考えると頭が下がるばかりですが、こうして一人の来館者として鑑賞するとやはり便利に感じます。

その美しさや技巧の細かさに息をのみ見惚れるばかりの前半と、その美しさが生まれた技法のヒミツや周辺の知識を学んだ後半。もし時間があれば、後半で得た知識を頭に置いた状態で、もうひと回りしたい気分でした。同じ展示でも「もう一度見てみたい」と思うのですから、作品入れ替えがあった時の高揚感は、なおさらでしょうね。

展示入れ替えは、実は「作品の保護のため」というのが主目的だったりもするのですが、来館者にとっては「衣替え」気分。美しさに感動し、背景の理解でさらに関心が高まって、そしてもう一度、鑑賞へ…という好循環が生まれる契機ともなるわけです。こうした気持ちに寄り添い、手間がかかっても音声ガイドを刷新する学芸員や職員の皆さん。来館者思いの姿勢、そして熱意が嬉しいですよね。

あの一度見たら忘れないほど鮮烈な印象を残す建物の設計テーマは、「塔と回廊」なのだそうです。廊下ではなく「回廊」という言葉は「ループ」を連想させ、何度でも展示室を回ってみたくなる気持ちと重なって、「粋だなあ」と思いました。琉球 漆芸、沖縄の美の回廊ともいうべき美術館、皆さんもゆったりとめぐってみませんか?

 

 

● 浦添市美術館 http://museum.city.urasoe.lg.jp/

なお、この記事で紹介した常設展は本年第1期で現在は終了、現在は令和元年度第2期常設展 「漆がつなぐ漆でつなぐ-寄贈者コレクション-」が開催されています。
また、こちらの収蔵品は撮影可能ですが、借用作品については撮影禁止の場合がありますのでご注意ください。