6月の鎌倉さんぽ――鎌倉文学館+長谷寺 観音ミュージアム

 

鎌倉文学館敷地内のあじさい

雨に濡れた古都を歩く風情は素晴らしいですが、お天気によっては歩くのが大変かもしれませんね。
散策に疲れたら、ちょっと一息。ここはミュージアムへ立ち寄られてはいかがでしょうか?

というわけで、今回は「鎌倉文学館」「長谷寺 観音ミュージアム」のご紹介です。

 

【鎌倉文学館】

鎌倉文学館

江ノ島電鉄に揺られて由比ガ浜駅で下車したら、緑深い丘をすこしのぼると、鎌倉文学館に到着です。

こちらは旧前田侯爵家の別邸として使用されていた建物で、現在では国の登録有形文化財にもなっているのだとか。洋風のデザインに見えますが、向かって右側の屋根が日本家屋におなじみの三角形(切妻)になっているなど、ところどころに和の要素も見受けられます。

鎌倉は、1889(明治22)年の横須賀線開通により、保養地として人気を博すようになったそうです。
第二次世界大戦中には、紙不足で本を制作できないことから、蔵書を貸し出すことで生活費を賄おうと、1945(昭和20)年5月に川端康成や久米正雄らが貸本屋「鎌倉文庫」を興しました。
戦後は「鎌倉文庫」を出版社に発展させたり、「鎌倉アカデミア(鎌倉大学校)」が開かれたりと、多くの人々がこの地で文化を育んできたようですよ。

 

常設展示室は2階の旧応接間から始まり、旧食堂、旧配膳室、旧寝室を通過する順路になっています

鎌倉文学館の2階常設展では、鎌倉にゆかりのある「鎌倉文士」たちが紹介されています。

写真には写っていませんが、名だたる作家たちの居住地などがマッピングされた鎌倉地図「文学都市かまくら100人」は、とにかく圧巻。時代もジャンルも様々で、正岡子規、与謝野晶子、有島武郎、小林秀雄、太宰治、三島由紀夫、渋澤龍彦……といった錚々たる顔ぶれです。周囲からは「この人も鎌倉に来たのね」「昔この人の本をよく読んだよ」なんてお喋りも聞こえてきて、ほのぼのとした気分になりました。

展示ケースには、鎌倉にまつわる作品や直筆原稿などが並んでいます。それぞれの字のクセから著書の装丁までも楽しめるのに加えて、丁寧なキャプション付きなのも嬉しいところ。
各展示室に時代別に設置された「鎌倉文学年表」は、なんと710年から2001年までを網羅しているという驚きの充実度です。

ところで、内装や左奥のステンドグラスがアール・デコ調であるのに対し、天井は市松の格天井。先日訪れた東京都庭園美術館を思い出しますが、こちらは靴を脱いで上がるスタイルですので、個人のお宅に遊びに来たようなリラックスした気持ちで、ゆったりと文学に向き合うことができますよ。

 

昭和10年当時の鎌倉の様子を再現するジオラマ。晴れた日には、窓のむこうに海が見えるそうです

テラスは休憩スペースになっています。おだやかな海風に吹かれながら読書を楽しむ方もいらっしゃるのだとか

特別展示室の様子

この日の特別展示室では、特別展「明治、BUNGAKUクリエイターズ」が開催中でした。

高橋源一郎氏の小説『日本文学盛衰史』には、日本近代文学の黎明期である明治の作家たちの葛藤が独自に解釈されて書かれているのだとか。その『日本文学盛衰史』をもとにしたこちらの展示では、文学作品のみならず、作家たち相互の関係性がわかる手紙や、それぞれの思想をあらわす文章、時代背景などが紹介されています。

二葉亭四迷、森鴎外、北村透谷、国木田独歩、島崎藤村、田山花袋、夏目漱石、石川啄木といった現在は「文豪」と呼ばれる大御所たちも、当時は明治という新しくやってきた時代のなかで、それぞれがもがきながら試行錯誤を繰り返してきた一人の挑戦者だったのでしょう。まさに「BUNGAKU」という新たな地平を切り拓く「クリエイターズ」だったのですね。

なお、展示では、高橋氏の魂に迫るようなステイトメントも見ものですよ!

 

左:「明治、BUNGAKUクリエイターズ」展のチラシ。右:青年団による演劇公演「日本文学盛衰史」のチラシ。展示を見て興味が湧いたので、演劇も予約しちゃいました

ところで、鎌倉文学館のもうひとつの見どころと言えば、こちらのバラ園。なんと200種類250株のバラが植えられているそうで、中には鎌倉にちなんだ珍しい名前のバラも見つけることができます。
見ごろは5月中旬~6月中旬と、10月中旬~11月下旬とのことですが、高台から海を見下ろすように位置するこちらの庭園なら、きっとどんな季節でも気持ち良く過ごせるに違いありません。

 

 

【長谷寺 観音ミュージアム】

長谷寺の観音堂

奥へ進むと観音ミュージアムの入口があります

続いて、鎌倉文学館から10分ほどの散策を楽しみながら、長谷寺へ。お目当ては、もちろん「観音ミュージアム」です。この日は平日の昼間だったのですが、境内は大賑わい! さすがは「鎌倉の西方極楽浄土」とも呼ばれる長谷寺ですね。

観音ミュージアムは、2015年10月に旧・宝物館からリニューアルオープンしました。展示空間が演出効果に富んでおり、映像展示やデジタル・キャプションも充実しているんですよ。それでは、さっそく入館してみましょう。

 

中央の観音を囲んでいるのは鎌倉市指定文化財「三十三応現身像」

「十一面観音菩薩立像」

1階の常設展示室にて、鎌倉市指定文化財である「三十三応現身像」に囲まれた「十一面観音菩薩立像」とご対面。これがビックリするほどきれいで、思わず感嘆の息が漏れるほどです。

展示室全体もお堂の荘重な空気を思い出させますし、写真の「十一面観音菩薩立像」は照明によって穏やかな面持ちや繊細な装飾がいっそう際立っています。
観音が人々に応じて三十三通りに変化したと言われる「三十三応現身像」からは、優しげな微笑から髪を逆立てて怒りを顕にした姿までが、ダイナミックに伝わってきました。

ほかにも国指定重要文化財の「梵鐘」や、鎌倉市指定文化財の「阿弥陀種子板碑」など、1階常設展示室だけでも書き切れないほどの見どころが。
ご来訪の際には、ぜひ隅々までご堪能になることをおすすめしますよ。

 

2階展示室の様子

特別寺宝「懸仏」

2階の展示室では、まずは常設の特別寺宝「懸仏(かけぼとけ)」をご紹介しましょう。
長谷観音像が取りつけられた「懸仏」はいずれも直径70cmを越える大きさで、全6面が並ぶと相当な迫力。鎌倉時代末期から室町時代(14~15世紀)の様式を示しているそうなので、同時代における長谷寺の隆盛を窺い知ることができますね。

左右上部に構える獅噛形鐶座(しがみがたかんざ)や、像の背に見られる舟形光背(ふながたこうはい)などの装飾部分にも目を奪われます。鏡面部に刻まれた銘文なども重要な資料的価値を持っているようですので、じっくり時間を取って観賞したいところです。

 

出土品の「舶載銭」

同じく2階展示室では、この日に開催されていた企画展「長谷寺・仏教美術の至宝Ⅳ ―考古資料編―」も拝見することができました。

長谷寺では、境内整備の際に板碑、土器、納骨などの様々な出土品が発掘されてきたとのことで、そうした出土品も寺宝としてコレクションしているのだとか。
写真の古銭は1955(昭和30)年から1984(昭和59)年までの発掘調査において出土したものの一部だそうです。総数はなんと45種類・約9000枚にものぼるとのことで、その大半は中国の宋銭「舶載銭(はくさいせん)」で占められているとか。まさにミュージアム(博物館)としての一面を垣間見る思いです。

 

菖蒲と池の鯉がなんとも風流な庭園です

長谷寺境内にある食事処「海光庵」で、肉・魚を使わない「お寺のカレー」を美味しくいただきました

 

というわけで、今回の「鎌倉さんぽ」はいかがでしたでしょうか?
鎌倉文学館の「明治、BUNGAKUクリエイターズ」展も、観音ミュージアムの「長谷寺・仏教美術の至宝Ⅳ ―考古資料編―」も、6月中はまだ開催していますので、雨の季節のうちに訪れてみてくださいね。
どうか足もとにお気をつけて……では、行ってらっしゃいませ!

 
●鎌倉文学館
「明治、BUNGAKUクリエイターズ」2018.4.21~7.8
http://www.kamakurabungaku.com/exhibition/index.html
 
●長谷寺 観音ミュージアム
「長谷寺・仏教美術の至宝Ⅳ ―考古資料編―」2018.4.27~7.8
http://www.kannon-museum.jp/exhibition/current/