サプライズに満ちた離島の歴史 ~宮古島市総合博物館

宮古島と聞くと、頭の中に広がるのは、南の島のトロピカルなイメージ。
ほとんど自動的にそんな風景が思いかびますが、この日の展覧会鑑賞は、ひと味違いました。
個人的なイメージとはほとんど真逆で、ちょっと怖さすら感じるほど、強烈なインパクトの展示から、この見学は始まりました。

私と同じような印象をお持ちの方がこの展示をご覧になったら、きっとこの日の私のような感動を覚えるはず。
というわけで、本日は宮古島市総合博物館での見学の様子をご紹介します。

全身に木の葉をまとい、真っ黒に泥を塗った人の実物大模型。
これはいったい何なのか、お分かりですか?
答は、宮古島で行われる厄払いの伝統行事「パーントゥ」。
「来訪神:仮面・仮装の神々」のひとつとしてユネスコの無形文化遺産に登録されましたので、ご存じの方も多いでしょう。

仮面が無表情で、しかも黒一色。
無形文化遺産には「男鹿のナマハゲ」を含む8県10件の伝統行事も同時に登録されましたが、もしかしたら匹敵する怖さかも…。
学芸員さんの話では、黒く見えるのは泥で、パーントゥに泥を塗られると厄払いになるとのこと。
不気味に見えますが、実は不運を追い払ってくれる存在なのですね。

さて、館内は「仲宗根豊見親」という人物関連資料に大きな展示スペースが割り当てられています。
15世紀後半から16世紀初頭にかけて宮古を治めた人物で、「豊見親」とは「とぅゆみや」と読みます。
これが、首長を表す称号なのだそうです。

仲宗根豊見親は、琉球国王・尚円王から島主に任命されたとのことですが、その当時、本土は戦国時代。
沖縄がいかに独特な歴史を歩んでいたのかがよく分かりますね。

1637年、宮古・八重山には「人頭税」という制度が敷かれ、人々は長らく重税に苦しみます。
人頭税の廃止に向けた活動が始まったのは、明治時代に入ってからとのことです。
中心的な役割を果たしたのは、真珠養殖を目指して宮古を訪れた中村十作と、製糖教師として宮古でサトウキビ栽培を指導していた城間正安。
「沖縄県宮古島々費軽減及島政改革請願書」を当時の帝国議会に提出し、可決されて、人々は厳しい税制から解放されました。

写真は、その当時の活動の記録となる資料です。
地元の方々にとって、このお二方は地元の救世主のような存在なのでしょう。
解説してくださった学芸員の方の表情も引き締まって見えました。

こちらの写真は、終戦直後の生活用具です。
金属類は軍部に接収されましたが、人々は墜落した飛行機の残骸など、ジュラルミンを使って生活道具を作ったのだそうです。
ケチャップの空き缶を使った楽器をご覧ください。
この地の方々にとって、音楽がいかに大切なものだったのかが伝わってきますよね…。

こちらは、農機具の写真ですが、まずその名称が印象に残りました。
サツマイモを掘ったり除草したりする器具を「ンムー・ブリャ」と呼ぶそうですが、発音が難しいですよね。
実は、カタカナでは正確に音を表現し切れないのだとか。

ところで、ここ宮古島には川がないことをご存じでしょうか。
サンゴ礁が隆起してできたこの島は、全体が珊瑚の石灰岩に覆われています。
石灰岩は雨水をすぐにしたに通してしまうので、川ができません。
したがって、川をせき止める方式の一般的なダムを作ることができないわけです。

一方、石灰岩の下には、水を通しにくい性質の地層が。
この層の上に、豊富な地下水がたまることになります。

そこで、地中にコンクリートの壁を作ることで、囲まれた部分の地下水が貯まり、その水を高い場所に貯水し、それを利用する「地下ダム」を採用。
地上のダムと違って、ダムによる土地の水没がない上に、ダムが決壊するということはありません。
また、豊富な地下水により安定して取水できるなど、多くのメリットが。
なかなか画期的な仕組みであるようです。

話が前後して恐縮です。

厳しい人頭税が課せられていた時代、人々は努力を重ねて「宮古上布」を生み出しました。
髪の毛ほどの細い糸を績むのですが、染めも織りも含めて全工程が手作業。
現在でも最高級の織物として知られているそうです。

試しにショッピングサイトで探しみたら、確かに高価な品でした。
何と百万円を超えるものもたくさんあり、驚きました。
島では、つくり方を学ぶこともできるそうですよ。

実物の脇に、宮古上布の主な図柄が展示されていました。
見た瞬間、「これはもしや」と思いました。
先日ご紹介した那覇市歴史博物館で見た図柄見本と、本当によく似ているのです。

「この図柄で作ってくれ」「承りました」という受発注の間柄だったのでは…。
2つのミュージアムで図柄見本を見て沖縄本島と宮古島の絆を想像したのですが、さて真偽のほどは?
次の訪問時に、ぜひ調べてみたいと思っています。

東京とは歴史も気候風土もまるで違う宮古島。
この日は1時間ほどの鑑賞だったのですが、サプライズのオンパレードでした。
自分がイメージしていた通りの素晴らしい環境の島に、イメージとはまったく異なる文化の数々。
博物館を後にしても、しばらく興奮がさめない私でした。

 

宮古島市総合博物館
https://www.city.miyakojima.lg.jp/soshiki/kyouiku/syougaigakusyu/hakubutsukan/