野田市郷土博物館――醤油と歴史を醸造する「うまみの街」から

 

野田市駅の看板には、キッコーマンの企業ロゴが記載されています

今回は、千葉県にある野田市駅にやって来ました。
野田と言えば、お醤油の街であることをご存知でしょうか?
利根川と江戸川という二大河川によって水運が発達したこの土地では、江戸時代初期から醤油醸造が発展したのだそうです。
その後、明治期には利根運河も開削されて、ますます水の豊富な地域となりました。

 

野田市郷土博物館・市民会館の入口。博物館と同じ敷地内にある市民会館は、国登録有形文化財である旧茂木佐平治邸。門も重厚なつくりです

さて、水運と言えば、つきものとなるのが水難です。
川や海に近い土地では、「船旅の途中、嵐で難破しかけたところを、何か聖なるちからに救われて……」といったような伝承を耳にしたりしますよね。
逆に言えば、そうした伝承が残ってしまうほど、水難から生き残ることは奇跡的な確率だったのでしょう。
それを知りながら船出を見送る人々の胸中を想像すると……いたたまれなくなります。

そんなわけで、水の豊富な土地には、水上交通の安全を願う信仰が目立ちます。
今回は、野田市郷土博物館の特別展『野田と大杉様~地域に息づく信仰~』で、その歴史を垣間見ることができました。

 

ご覧ください、この迫力!
これらは「大杉様」のお姿として大切にされている天狗像。
この大杉様こそが、まさに水難や疫病から守ってくれる存在として、さまざまな形で伝えられてきたそうなのです。
この凄まじいインパクト、確かにどんな悪運も退散してしまいそうですね……!

言い伝えのもととなった大杉神社の本社があるのは、茨城県稲敷市阿波(あば)。
奈良時代から鎌倉時代にかけて、阿波の大きな杉の木に神霊たちが現れては、水難救助や疫病退散などに霊験(ご利益)を示していったのだそうです。

あれ? 待ってください。
阿波は茨城県で、野田は千葉県。
かなり離れた野田に大杉様の信仰があるというのは、どういうことなのでしょう。

 

野田市の堤台にある八幡神社から寄贈された大杉神輿。金属の錺(かざり)に彫られた装飾も見事です

舟のかたちをした珍しい「船神輿」は、水の土地・野田ならではの表象といったところでしょうか

ここで、お神輿の登場です。
大杉神社の神輿が村から村へと引き継がれていく「村継」とともに、伝承も渡っていったと考えられているのだとか。

ほかにも、持ち運びのできる小さな祠などにも大杉様が祀られているのだそうです。
必ずしも神社という拠点を持たないのが、この民間信仰の特徴。
何とも躍動的でダイナミックな伝承の形です……!

 

館内は吹き抜けが気持ちよく、ユニークな設計が施されています。建築は、なんと、日本武道館や京都タワーなどの設計者としても知られる山田守によるもの。一階は特別展、二階では四方をぐるりとまわって常設展を見ることができます

どこかで見たことがあるマークも、野田で生まれたものなんですね

いずれも醤油を入れていた容器。これ以前は樽が主流だったということで、ビンの普及とともに樽屋さんが廃業を迫られるという一面もあったようです

二階の常設展も、充実の内容です。
野田は企業城下町でもありますから、お醤油に関連する商人や企業がどのような道具を必要としてきたのか……と、プロダクトデザインの観点から見ても楽しめる展示の数々。
こうした道具が完成するまでには多様な分野の職人も出入りしてきたでしょうから、きっと賑々しい街だったのでしょうね。

 

博物館のとなりに位置する市民会館へも入れます。こちらの建物は、醤油醸造家である茂木佐平治氏の邸宅として大正13年頃に建築されたもので、昭和31年に野田市に寄贈されたのだそう。平成9年には国登録有形文化財として認定されています

平成20年に国登録記念物(名勝地関係)となった庭園も散策できますよ

 

いかがでしたでしょうか。
展示内容も素晴らしかったのですが、最後に、博物館への行き帰りの散策も楽しかったことをご紹介しておきます。
蔵造りの建物をたびたび見かけたり、文化財建築が点在していたり。
何気ない街角の風景からも歴史感が味わえるのです。

この日に感じた野田の魅力は、とてもここには書き切れません。
醤油と歴史がゆっくりと醸造された「うまみ」たっぷりの街、ぜひ一度お出かけになってみてくださいね。

 

●野田市郷土博物館
特別展『野田と大杉様~地域に息づく信仰~』2018.10.6~12.17
http://noda-muse.or.jp/exhibition/exhibition