さまざまなジャンルの美術工芸品を、ひとつの「色」だけに絞ってまとめる。
これ、展覧会のテーマとしては、とても面白い視点です。
しかも「沖縄の黒」となると、何だかたくさんの発見がありそうな予感。
ということで、今回は那覇市歴史博物館で標題の展覧会をじっくりと見学。
実に興味深い展示を満喫することができました。
まずはこちらから、「黒漆雲龍螺鈿盆」です。
中国・清朝の皇帝への贈答品として作られたものなのだとか。
黒地に施された模様が微妙な加減の光を放ち、高級感たっぷりです。
この装飾は螺鈿(らでん)といって、貝殻の内側の光沢を持つ部分を薄く切って作ったもの。
琉球漆器では、沖縄近海でとれる夜行貝が使われているそうです。
「地色が黒だと模様が映えるなあ」と思っていると、ほかの色に乗せた様子もあわせて展示されていました。
それぞれに独特の味わいがあり、異なる上質感をまとっています。
同じ素材でもイメージが変わることがよくわかりますね。
でも、個人的には、やはり圧倒的に「締まって見える」黒が好みです。
そう言えば、黒は体型もうまくボカしてくれる色(?)ですしね…。
黒漆器に螺鈿という組み合わせが醸し出す気品は、インテリアとしても重宝したのでしょう。
これは「黒漆菊牡丹螺鈿沈金中央卓」。上段には香を置き、下段には花を生けたそうです。
さしずめ2段構えのテーブルといったところでしょうか。
重厚な気品の上に、コンパクトな機能性も備えたインテリアであるわけですね。
こちらは、角に置かれた螺鈿が非常に印象的です。
全体的に装飾を施すのではなく、少し控えめなところがまたオシャレですよね。
続きまして、こちらは「黒漆貝尽螺鈿漆絵料紙箱」。
漆絵と螺鈿でさまざまな貝が描かれてます。
箱がカンバスのようですが、地色が黒だとやはり引きたって見える気がします。
ところで、こちらの展覧会では、各国語の解説ページが表示されるQRコードが設置されています。
これを利用すれば、スマートフォンですぐに詳しい情報を見ることができるんですよ。
外国からの来館者も多い土地柄ですので、外国語での情報提供は不可欠。
でも、それぞれ壁に解説を貼り出すと、展示室がパネルだらけになってしまいます。
スマホなら、占有するスペースが最小限で済みます。
また、あらかじめ構築してあるデジタルミュージアムの情報を使えるので、職員の方々の負担も軽くできます。
本当に便利な時代になりましたよね。
ちなみにこちらはスペイン語の画面。スペイン語圏のお客様も安心です。
さて、個人的にとても興味を惹かれたのが、衣類です。
下の写真、左は沖縄の伝統的な衣装、右は日本的な袴…確かに基本的なデザインからして違いますよね。
驚くのは、両者が使われていた時期。
何と、ほんの数十年の開きしかないのだそうです。
この2枚の衣服だけでも、沖縄にいかに急激な変化が訪れたのかをうかがい知ることができます。
こちらも黒い衣装です。とても粋な着物ですね。
幾何学的な図柄が編み込まれています。
こうした図柄は多様なデザインパターンがあり、見本が冊子にまとめられていたそうです。
この手法は、現在のパターン集とまったく同じですよね。
それぞれの図柄を見てみると、現代のファッションやインテリアに使えそうなものばかり。
デザイン素材として今でも通用するんじゃないかと思えるクオリティです。
ほら、次のページを開いてみたくなりませんか?
当時は、王族がこの「パターン集」に基づいて柄を選び、主に離島で着物として仕立てられていたそうです。
本島が発注して離島が受注するという間柄で、こちらは発注者側の展示ですね。
ところが、この翌日、なんと受注者側の展示を見る機会にも恵まれました。
このように、ひとつの地域で複数の博物館をまわると、同じテーマでも視点が異なる展示に出会うことがあります。
ミュージアムに出かけた時は、近隣の別の館を訪ねるのもおすすめですよ。
青い海に、白い砂浜。
私に限らず、多くの人々は沖縄という地に明るい色を連想するでしょう。
でも、どんな土地でも、ひとつのイメージだけで成り立っているわけではありません。
今回、真逆とも言える「黒」から眺めた沖縄も、今まで知らなかった魅力に満ちていました。
リゾートとはまったく異なる視点から見る琉球の歴史。
その奥深さの一端に触れられたような気がしました。
残念ながら、この展覧会は12月26日で終了します。
でも、那覇市歴史博物館では、とても充実した「デジタルミュージアム」を運営中。
こちらも楽しいので、ぜひご覧くださいね。
那覇市歴史博物館 http://www.rekishi-archive.city.naha.okinawa.jp/