ギャラリーという名の美術館――東京オペラシティ アートギャラリー

東京・初台の複合施設オペラシティの中に、人気のミュージアムがあります。
今回ご紹介させていただくのは、東京オペラシティ アートギャラリー。
ギャラリーという名前ですが、作品を売っているわけではなく、また学芸員がいてコレクションもある、ミュージアム(博物館相当施設)なんですよ。

異なる広がりを見せる4つの展示室から成る、都心のオアシス的な存在。
この日も、真夏の暑さを和らげてくれるような展示に巡り合うことができました。

 

現代美術を中心とする企画展が年に4回開催されていますが、いつも話題になっていますね。
現在開催中の「ジュリアン・オピー」展も、この夏に注目を集める展覧会のひとつです。
写真撮影が可能というだけあって、各種SNSでも人気の様子。
もちろん筆者も「良い写真を撮るぞ!」と意気込んで、会場に足を踏み入れたのですが……。

 

お、大きい……!
展示室の全体が一枚の画像にまったく収まらず、どこから撮ればよいのか迷ってしまいます。
一体どうやって搬入したのでしょうか?

天井高6メートルという開放感あふれる空間なのですが、2枚並べられた大型作品の高さも、なんと5.9メートル。
つまりほとんどギリギリのサイズなのです。
それでも不思議と圧迫感を感じないのは、ジュリアン・オピーのシンプルな作風のせいかもしれません。

 

デフォルメされた歩行する人物像が描かれた作品群は、身軽で颯爽とした出で立ち。
でも、よく見ると、足や首は省略されていても、イヤホンやタトゥーなど特徴的な細部はしっかり捉えられていることに気づきます。
その対比によって、簡略化の妙がより一層冴え渡るようです。

 

左:《Headphones》2018年、右:《Logo》2018年

ジュリアン・オピーは、イギリスを代表する現代アーティストの一人。
芸術家として世界中で活躍するばかりでなく、なんと浮世絵のコレクターでもあるのだそうですよ。
なるほど、オピー作品の特徴的な輪郭線は、浮世絵からインスピレーションを得たものなのかもしれませんね。

浮世絵から影響を受けて輪郭線を強調した作家と言えば、エミール・ベルナールやポール・ゴーギャンを連想します。
どうでしょう、ゴーギャンとオピーは似ているでしょうか?
そんなことを考えながら眺めるのも面白いかもしれません。

 

こちらはまるごと都市の街並みになってしまったかのようなギャラリー2の展示空間。
石、ブロンズ、アルミニウム、そしてLEDスクリーン。
作品によって多様な素材が使い分けられているので、見た目の重量感も異なるのですが、不思議とちぐはぐな印象を受けません。
400㎡以上もあるという広々とした展示空間と、ミニマルで統一された作品世界の相性が良いのかもしれませんね。

街の中を探検するかのように作品と作品の間を行ったり来たりできるのが、なんとも楽しい鑑賞体験です。
ぜひ色々な角度から街を眺めてみてくださいね。

 

《Carp》2019年

長いコリドール(回廊)には、20台ものLEDスクリーンがズラリと並んでいます。
流れているのは、ゆらゆらと鯉が泳ぐ様子を描いたアニメーション。
他のオピー作品からは特定の国籍を感じ取れなかったのですが、こちらは日本庭園を彷彿させます。

簡略化された記号だからこそ、意味から離れるもの。
簡略化された記号だからこそ、かえって意味を強めるもの。
シンプルさを突き詰めると、ものによっては両極の効果が生まれるのかもしれませんね。

 

様々な体験や発見を楽しみながら、上機嫌に上階のギャラリー3・4へ。
こちらのフロアでは、東京オペラシティ アートギャラリーが所蔵する寺田コレクションの展覧会が催されています。
寺田コレクションは、東京オペラシティ共同事業者でもある故・寺田小太郎氏によって収集されたコレクションで、その数は約3,700点にもおよぶのだとか。

この日は、「池田良二の仕事」が開催されていました。
60点以上もの細密な作品群には多様な銅版画の技法が用いられており、見どころ満載。
残念ながら展示室内で写真は撮れませんので、ぜひご自身の目で確かめてみてくださいね。

 

コレクション展示室脇のコリドールでは、若手作家の育成・支援を目的とする展覧会シリーズ「project N」が開催されています。
寺田コレクションの中心作家である故・難波田龍起氏の遺志を継いで続けられているのだそう。
この日は、末松由華利さんの作品が紹介されていましたよ。
水や自然を想起させる抽象絵画の数々が、ひんやりとした館内にいっそう映えています。

 

東京オペラシティ アートギャラリー「ジュリアン・オピー」展は、2019年9月23日まで。
涼しい美術館で体も心も鎮めて、見知らぬ都市の風景を堪能する……そんな一日はいかがでしょうか?
気になった方は、ぜひオペラシティへお出かけになってみてくださいね。

 

 

●東京オペラシティ アートギャラリー
https://www.operacity.jp/ag/index.php

※以下の展覧会の会期はすべて2019年7月10日(水)~9月23日(月)
「ジュリアン・オピー」 https://www.operacity.jp/ag/exh223/
「収蔵品展067 池田良二の仕事」 https://www.operacity.jp/ag/exh224.php
「project N 76 末松由華利 SUEMATSU Yukari」 https://www.operacity.jp/ag/exh225.php