札幌芸術の森 野外美術館

マルタ・パン《浮かぶ彫刻・札幌》(1986年)。フォルムが愛らしく、水面の揺らぎや風を感じさせます。写真の子どもたちも、開放感にあふれた景色を全身で楽しんでいるようです。

 

このたびの台風21号および北海道胆振東部地震により被災された皆さまと、そのご家族、関係者の皆さまに、謹んでお見舞い申し上げます。
映像を見るだけでも、被災地の方々のショックや悲しみが簡単に癒えるものではないことは容易に察せられます。いまはただ、一日も早い復興をお祈りするのみです。

美術館や博物館、あるいはその収蔵資料や芸術作品は、人々や時代にさまざまな影響や感動をもたらしてくれます。関連する土地への愛着や知的好奇心を再認識するきっかけとなることもあるでしょう。
新たな気づきを生んだり、次なる行動を後押ししてくれたり――そうした性質を持つ芸術の存在が、今日も人々を癒し、また勇気づけてくれることを願っています。

というわけで、今回はささやかな応援の意味も込めて、復旧したばかりの「札幌芸術の森 野外美術館」へ行ってきました。

 

飯田善國《大地からの閃光》(1986年)。風によって2本の羽に動きが生じます。動いていることがわかるように、少し時間を置いて、同じ場所から2枚撮ってみました。ステンレスに光や青空が映り込んで、とてもエネルギッシュに見えます。

私が訪れたのは、9月中旬。この日の札幌は晴れ、最高気温は27度まで上がりました。
震災後で節電対応中ということで、お邪魔になるのではないかと心配しましたが、少なくとも観光客に影響があるような緊急の状態は解消されていました。
おかげで、ほぼ台風と地震の前に立てた計画通りに動くことができました。

台風21号の影響による倒木のため数日間にわたり休園中だった「札幌芸術の森 野外美術館」も、9月14日(金)から無事に再開しておられます。
関係者の皆さまの素早いご対応に、まずは心から敬意を表したいと思います。

こちらの野外美術館は、実に7.5ヘクタールにも及ぶ広大な敷地を有しており、64作家74点の彫刻作品が点在しています。さすがは北海道といった規模感ですね。
なお、敷地内には屋内の「札幌芸術の森美術館」もありますから、計画を立てる際には展覧会情報をチェックしておくとよいでしょう。
今回は屋外美術館にフォーカスしますが、屋内の方もおすすめですよ。

では、敷地内を気ままに散策してみましょう。

 

土谷武《挑発しあう形》(1986年)。開けた空間とゆるやかな勾配に、作品の大きさや傾斜、石と金属が対立するような質感が映えています。思わずこちらも大きく手を振ったり、何かリアクションを返したくなりました。

 

秋山沙走武《ミロク’89-Ⅰ》(1989年)。森の中に点在する小型~中型の作品群のひとつです。この像は深く沈黙する姿が美しくて、とても感動的なんですよ。写真は一歩引いて撮影したのですが、「森の中で裸のまま思案している」図が強調された形で、少しシュールな感じになりました。

広いだけでなく、景色に多彩なバリエーションがあるのが、この野外美術館の魅力のひとつ。
もちろん、作品も具象から抽象まで多種多様ですが、それらのひとつひとつが周囲の風景との相乗効果で存在感を増しているような気がします。
上の2点の作品からも、そんな印象を受けませんか?

漫然と置かれているのではなく、しっかりした意図があるのだろうと感じますが、それもそのはず。
展示作品の多くは、作家が実際にこの「芸術の森」を訪れて、それぞれの場所のために新たに制作したものなのだそうです。
「よい場所に置かれているなあ」と感じるのは、偶然ではないわけですね。

 

峯田敏郎《風と舞う日》(1986年)

たとえば、森の中でこの作品に出会ったときの衝撃と言ったら!
細道の脇に置かれているのですが、狭い場所だからこそ、むしろ動きのダイナミズムが伝わってくるような気がします。
童話や民謡に登場する妖精や妖怪も、こんな具合に、山や森の中で突然はしゃぎ出して、人間を驚かせたり笑わせたりするのかもしれませんね。

 

堀内正和《のどちんことはなのあな》(1965年)。あまりにも周囲に馴染んだポストのような金属作品。その表情にも、そしてタイトルにも頬が緩んでしまいました。穴の中に見えるものは……? ヒントはタイトルです。

 

李禹煥《関係項》(1988年)。森の中にぽっかりと出現する、なぜかここだけ異様に静かな空間。作品と一体となって哲学的な問いかけを生むような、不思議な場所です。

 

福田繁雄《椅子になって休もう》(1990年)。座った自分も誰かのための椅子になれる、そんな助け合いの精神が満ちた21世紀を……という想いが込められた作品なのだそう。森の中でひときわ明るい色彩が目をひきますね。

 

いかがでしたでしょうか?
先に申し上げたとおり74点もの作品が置かれていますから、ここで紹介させていただいた作品は、ほんの一部に過ぎません。
そして写真を掲載した作品も、時間、天気、季節……さまざまな野外ならではの条件によって、異なる角度から、また別の魅力をのぞかせてくれるでしょう。
陽光や風をあびながら間近に見たときの感動は格別ですので、ぜひ訪れてみてください。

2020年には、第3回目となる札幌国際芸術祭も控えています。
こちらももちろん要注目ではありますが、芸術祭期間外にゆっくりと訪れるのも、きっと楽しいですよ。

地域によって復旧状況は異なりますので、旅行時には配慮や理解が必要な場面もあるかと思いますが、「一日も早く元気な北海道に」という気持ちは同じですので、みんなで応援していきたいものですね。

 

●札幌芸術の森 野外美術館
https://artpark.or.jp/shisetsu/yagai-sapporo-art-museum/