新宿・高層ビル街で、心静かに《ひまわり》と向き合う歓び――SOMPO美術館

 

新たに建設されたSOMPO美術館1階のエントランス

「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」改め、「SOMPO美術館」。館名を改称する形でオープンを果たしたこちらの美術館、話題になっていますよね。損害保険ジャパン株式会社の関連美術館ということで、以前は本社ビル内にありましたが、2020年7月、敷地内に新設した美術館専用となる建物に移転。西新宿の新たなランドマークに相応しく、華々しい開館となりました。

数々の名画コレクションを贅沢に展示する開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び」は、この夏、見逃せない展覧会のひとつ。というわけで、さっそく出かけてきましたので、ほんの一部ではありますが館内の様子をご紹介いたします。

 

5階展示室の風景

展示室は、5階から4階、3階へ…と、上階から降りながら鑑賞するように構成されています。スタート地点となる5階に展示されているのは、大正期から平成期までに描かれた、日本の作家の作品群。草木・動物・風景など、四季折々の自然が豊かに表現された作品がゆったりと並んでいます。

ちなみに現在は、新型コロナウイルス感染防止対策のため、入館には日時指定チケットを事前購入する必要があります。いわゆる3密の回避は、そのまま混雑の緩和に繋がりますから、気が急くことなく鑑賞できるのが嬉しくもあったり。特にここ5階の展示室では大型作品も展示されていますから、立ち止まって隅から隅までじっくりと味わうチャンスとも言えるわけです。

 

山口華楊 屏風絵《葉桜》1921年

山口華楊《葉桜》修復の経緯を解説したパネル

そんな大型作品の中でも特に大きく目立っていたのが、山口華楊による屏風絵《葉桜》。花が咲き終わった時期の枝垂桜をモチーフとした、日本画です。光と影の明暗の表現がなんとも美しく、穏やかな日差しを予感させてくれます。華楊は西洋風の石膏デッサンを経験していたとのことで、画中のところどころで際立つ立体的で精密な描写も見どころです。

ちなみに、こちらの作品には、もうひとつ見逃せないポイントが。美術作品の展示にはケアやメンテナンスが付き物ですが、この《葉桜》に関しては、作品修復の様子がパネルで解説されているのです。修復前の姿、細部のアップなども写真で示されていますので、作品本体とパネルとを照らし合わせながら鑑賞するのもまた一興。「展覧会の裏側」が垣間見えるようなこうしたパネル解説は、他にも幾つか見られました。コレクションをより深々と味わえるよう、工夫が凝らされた展覧会であることがうかがえます。

 

「SOMPO美術館と損保ジャパン本社ビル 1/500ボリューム模型」大成建設株式会社一級建築士事務所

プロジェクト初期の検討模型(10パターン)2016年、大成建設株式会社一級建築士事務所

こちらは開館記念展らしく、美術館の建設経緯を紹介した展示スペースです。高層ビルに、ころんと寄り添う6階建ての美術館の模型が、なんともかわいらしいですよね。

建物の曲線は、コレクションの多数を占める洋画家・東郷青児の作品からインスピレーションを受けたものなのだとか。ほかに美術館の沿革や検討模型なども用意されていますから、今回の新館開設に至るまでの周到な準備や長い道のりなどが想像されます。

 

4階展示室の風景。右側が東郷青児作品、左側が「FACE」グランプリ作品群

青木恵美子《INFINITY Red》2016年、「FACE2017」グランプリ作品アップ。花びらがアクリル絵具で成形されているそうです

4階では、東郷青児の作品群に加え、新進作家の作品7点が、同じ展示室内に展示されていました。新進作家と言っても、SOMPO美術館が毎年催している公募「FACE」の歴代グランプリ受賞作品ですので、大作揃いです。これらはSOMPO美術館に収蔵されますので、今回のようなコレクション展でも展示されることになるわけですね。

もちろん青児作品とは時代も技法も作風も異なるわけですが、時を経て異なる文脈を持った作品たちが突然一堂に会してしまったかのように、なかなか刺激的な光景が展開されていましたよ。

 

4階展示室風景・東郷青児作品群

東郷青児《髪》1924年

東郷青児がデザインした保険案内のパンフレットなど

さて、SOMPO美術館は、開館した1976年当時は「東郷青児美術館」という名称でした。青児本人から作品と自身のコレクションの寄贈を受けたことが開館のきっかけとなったわけですが、そんな経緯から、青児作品の展示コーナーはとても充実しています。

フランス留学を経たこともあってか、キュビスムの影響が色濃く見られる1910~20年代の初期作品。「青児美人」とも謳われた独特で優雅な女性画から、ブロンズ像や絵コンテまで。さらには、青児がデザインした損保ジャパンの前身・安田火災海上保険のパンフレットも展示されています。保険のパンフレットは生活に身近ですから、もしかしたら、当時手に取ったことがある…なんて方も少なくないかもしれませんね。

 

3階展示の風景

ポール・セザンヌ《りんごとナプキン》1879~80年

フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年

3階展示室には、思わず目が釘付けになる名画の数々が……!
ゴッホを筆頭に、セザンヌにルノワール、ゴーギャンやルオー、ピカソ、さらには岸田劉生や藤田嗣治などの絵画がズラリ。さながら東西オールスターズといった趣で、あまりの迫力に圧倒されてしまいました。

そんな展示作品のひとつ――ゴッホの《ひまわり》については、美術好きの方々には説明不要でしょうか。花瓶に生けられた向日葵をモチーフとした、ゴッホの《ひまわり》シリーズ。計7点が制作され、6点が現存するとされていますが、なんと、そのうちの1点をここSOMPO美術館が収蔵しているのです。1987年に損保ジャパン(当時の社名は安田火災海上保険)が約58億円で購入したとのことですから、この作品そのものが企業のスケールを物語っているようですね。

それにしても、荒々しくも生命力あふれるこの《ひまわり》を、混雑がない空間でゆっくり鑑賞できるなんて、なんと贅沢な展覧会でしょうか。新型コロナウイルス禍の副産物ではありますが、心を鎮めて歴史的作品と相対する時間には、何にもかえがたい歓びがある気がします。

 

広々とした2階のミュージアムショップにも、ゴッホやセザンヌなどの関連グッズがたくさん

階段の踊り場にもご注目を

いかがでしたでしょうか。SOMPO美術館は、東京・新宿西口の高層ビル街の一角に位置していますので、アクセスも良好。今回ご紹介した開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び」は2020年9月4日(金)まで開催中ですので、公式HPを参照の上、日時指定チケットを事前購入してからお出かけになってくださいね。来館当日は、マスクもお忘れなく。

個人的には会期中のお出かけをおすすめしますが、外出に抵抗をお感じの方や、遠方にお住まいの方などは、まずはコレクションデータベースを覗いてみるとよいでしょう。素晴らしいコレクションの数々、是非ゆっくりとご覧くださいね。

 

●SOMPO美術館
https://www.sompo-museum.org/
開館記念展「珠玉のコレクション-いのちの輝き・つくる喜び」
2020.07.10(金)- 09.04(金)